2017年12月15日金曜日

東京外国語大学でエチオピア映画 『TEZA』 (2017/12/10)

を見てきました。

・東京外国語大学 TUFS Cinema > 過去の上映会 > 2017年度 > 『テザ 慟哭の大地/TEZA』 2017年12月10日(日) 13:30開場 14:00開映(as of 2017/12/13)
https://tufscinema.jp/171210-2/

エチオピア映画上映会『テザ 慟哭の大地/TEZA』


同上映会チラシ

上映作品 : 『テザ 慟哭の大地/TEZA』+上映後、エチオピア史学者による講演会あり!
開催日時 : 2017年12月10日(日)14:00開映(開場13:30)
会場 : 東京外国語大学 アゴラ・グローバル プロメテウス・ホール
プログラム : 映画『テザ 慟哭の大地/TEZA』本編上映+講演会・映画解説 眞城百華先生(上智大学 エチオピア史研究)
その他 : 入場無料、各回とも先着501名、申込不要、一般公開
主催 : アフリカンウィークス実行委員会(東京外国語大学学生団体Femme Café/同大アフリカ地域専攻有志)
協力 : シネマトリックス/東京外国語大学 現代アフリカ地域研究センター/東京外国語大学TUFS Cinema

作品紹介
2008/エチオピア=ドイツ=フランス/アムハラ語、ドイツ語、英語/140分/カラー/日本語字幕付
監督 : ハイレ・ゲリマ(Haile Gerima)(監督/脚本/制作)
制作 : カール・バウムゲルトナー(Karl Baumgartner)
共同制作 : マリー・ミシェル・カトラン(Marie-Michèlegravele Cattelain)、フィリップ・アヴリル(Philippe Avril)
出演 : アロン・アレフェ(Aaron Arefe)、アビイェ・テドラ(Abiye Tedla)(出演者名は修正した)
【あらすじ】1970年代に医者を志し故国エチオピアを離れ、ドイツに留学していたアンベルブル(Anberber)。しかし、外国での人種差別と、皇帝ハイレ・セラシエ(Haile Selassie)の支配から軍事独裁政権に取って代わった故国の現状に失望し、荒涼とした故郷の村に帰ってきた。村で待つ母と村人たち。その中に佇むひとりの謎の女性アザヌ(Azanu)。蘇ってくる幼少期の記憶と大地の霊、忘れることができない夢に導かれるようにアンベルブルは、過去と現在を行き来する。そこに迫りくる独裁と暴力の影。この国に未来はあるのだろうか。その先に見えてくる希望の光とは。

ワガドゥグ全アフリカ映画祭 FESPACO グランプリ、ヴェネチア国際映画祭 脚本賞/審査員特別賞、カルタゴ アラブアジアン映画祭 Tanit d’Or グランプリ

参考:
・Wikipedia (English) > Teza (film)(This page was last edited on 20 September 2017, at 23:06)
https://en.wikipedia.org/wiki/Teza_(film)
・IMDb > Teza (2008)(as of 2017/12/13)
http://www.imdb.com/title/tt1284592/

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この映画は、1970年代から活動を続けてきた在米Ethiopia人監督Haile Gerima(1946-)の作品。

どうもこの人は、歴史もの・政治ものを志向する監督のようだ。この作品も政治的な主張が強く入っている。

参考:
・Wikipedia (English) > Haile Gerima(This page was last edited on 9 December 2017, at 02:56.)
https://en.wikipedia.org/wiki/Haile_Gerima
・岡倉登志 (2007.12) 13 ヨーロッパの博物館で冬眠? エチオピア映画. 岡倉登志・編著 『エチオピアを知るための50章』(エリアスタディーズ68)所収. pp.103-108. 明石書店, 東京.

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この映画の舞台は、Ethiopia北西部Amhara州Tana湖北岸Gorgora近郊。


Google Mapに加筆

映画には、Tana湖の風景が繰り返し現れる。特に朝のシーンは美しい。Ethiopia地図は何度も見ているのだが、Ethiopiaの湖なんて気にかけたことなかったよ。勉強になった。


Google Mapに加筆

だいたいこの辺だろう。映画に出てくる島があるのはこのあたりだし。

Anberberが登っていた、対イタリア戦勝記念碑が立つMussolini山(というより丘)の場所はよくわからなかったのだが、Google Mapでは、印の場所に長い影が見えるので、たぶんここだろう。

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映画パンフレット, p.1&p.4


映画パンフレット, pp.2-3

映画は、Gorgora近郊の村にAnberber(40代)が帰って来る場面からはじまる。これはMengistu政権末期の1990年頃のようだ。

けがもしており、失意のAnberberはぶらぶらと散歩をするのみで、日々鬱々として過ごす。この辺が実に長く続き、ストーリー的にはけっこうじれったいのだが、Ehiopiaの村や習俗、エチオピア正教の寺院などを知るにはすごくおもしろい。

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映画は、徐々にAnberberの回想シーンの比率が高くなる。

1970年代はじめ、Anberberは医学留学で西ドイツ滞在。そこで反Haile Selassie皇帝運動にかぶれる。

1974年革命が成功し、Mengistu軍事政権が成立。皇帝Haile Selassieは密かに処刑された。

親友Tesfayeはドイツ人の妻子を置いてEthiopiaへ帰国。やがてAnberberも帰国し、Tesfayeの下で医学研究にはげむ。

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しかし、Mengistu社会主義政権は、皆が期待したような民主的な政権ではなく、政敵や反政府的な言動をする人々が日々逮捕され拷問や処刑される恐怖政治であった。

せっかく革命が成功したのに、その社会に幻滅するAnberber。彼の反政府的言動は、政府の標的となる。人民裁判で吊し上げをくらい、ついには自己批判に追い込まれる。

AnberberやTesfayeを追い詰める大臣役の俳優(名前は知らない)がすごく良かった。悪役として名演ですよ。

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Tesfayeもリンチで虐殺され、Anberberは東ドイツにいやいや派遣される(言うことを聞かないと命が危ない)。

そこでAnberberは1989年の「Berlinの壁崩壊」を目にする。はっきりと描かれてはいないが、それに続くソ連崩壊が、1991年のMengistu政権の崩壊につながるのだ。

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Anberberがけがをしたのは、こういった政治の動きとは関係ない出来事だった。これはちょっと意外。唐突な感は否めない。

そして冒頭のAnberberの帰郷につながる。

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最後はAnberberも立ち直り、明るい希望がほの見えるエンディング。実はもうMengistu政権崩壊は間近であることは、Anberberは知らない。

「ベルリンの壁崩壊」などとダブらせて、政権崩壊を匂わせてもいいのにな、とも思うが、この点この映画は淡々としている。これがGerima監督の作風なのだろう。

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とまあ、実際のEthiopia現代史のtime scaleを知った上で見るとすごく面白いのだが、基礎知識がないとわかりにくい映画かもしれませんね。時間も行きつ戻りつするし。

この映画が語る政治的な主張は、反Mengistuであり、現政権の立場と近い。まあ、Mangistu政権が「問答無用の悪役」として描かれるのは当然なんだけど、かといって現政権もどうもずいぶんロクでもないことをしているらしい。

だから、この映画の政治的主張もすぐに古くなるであろうが、でも、Gorgora周辺の美しい村・湖の風景はいつまでも映画の中に保存される。そういう意味で、Ethiopiaにとっても我々日本人にとっても有意義な映画であるのは間違いない。

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端々に出てくるEthiopia民謡/歌謡もなかなかよかった。Major音階のAfrican Popsとも、Arabic音階とも違うし、日本の追分などの民謡とそっくりです。いわゆるPanta-tonic(五音階)。

Ethiopiaで日本の演歌が人気なのも頷ける。

こういった離れた土地で、似た音階が現れるというのはホント不思議。これも文化周圏論が適用できるのだろうか?今後の課題ですな。

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なお、Ethiopiaをテーマにした音楽については、分家blogの

2017年4月4日火曜日 James Newton/AXUM 驚異のフルート・ソロ

で少し語っていますので、興味のある方はどうぞ。

この音楽は、モチーフとしてEthiopiaを使っているだけで、現実のEthiopia音楽とはほとんど関係ないのですが。

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主催者側の学生さんは、まだ1・2年生が多く、みんな初々しくも楽しそうでよかったです。Rasta colorsのAfricaマニアみたいな人はいなかったなあ(笑)。

東京外国語大学では、この映画の他にも2017/12/22までAfrica Weeks 2017という催し物をやっているので、皆さんも是非行ってみてください。



またこういうAfrica映画上映会があったら絶対行くぞ。

2017年12月7日木曜日

鶴田謙二 『冒険エレキテ島1-2』

一部で熱狂的な人気を誇るツルケンの「はじめての2巻」だそうで、1巻を持っていることもあり、さっそく買いました。

1巻を紹介していないので、一緒に紹介しましょう。

・鶴田謙二 (2011.10) 『冒険エレキテ島1』(AFTERNOON KCDX). 190pp. 講談社, 東京.
← 初出 : 講談社・編 (2010.7) 『漫画BOX AMASIA』. 講談社, 東京./アフタヌーン, 2011年11月号.
・鶴田謙二 (2017.11) 『冒険エレキテ島2』(AFTERNOON KCDX). 190pp. 講談社, 東京.
← 初出 : アフタヌーン, 2012年10月号~2017年12月号.


COVER DESIGN : Tadashi HISAMOCHI(hive&co.,ltd.)

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1巻の頃、作者はガンガンに盛り上がっていたのだろう。2年くらいで長もの2本描いて、すぐ単行本が出たようだ。遅筆で有名なこの人にしたら、すごいね。

実はツルケンを読み始めたのは最近。デビューの頃から横目でずっと見てはいたのだが、じっくり読むまでは行かなかったが、これはすごく面白そうなので買ってみたのだった。

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いやあ、1巻すごく面白い。

主人公の「みくら」(二十代前半?)は、複葉水上機で伊豆諸島~小笠原諸島の貨物配達業をしている。


同書1巻, pp.154-155

見ての通り、この緻密な絵は文句なし。めったに単行本が出ないにもかかわらず、熱狂的な固定ファンが多いのも納得だ。

でも、これは遅筆は当然だわ。一人で描いているんだろうし。

この人は、すらりとした若い女の子の裸を描くのも大好き。それでこのマンガでも、みくらはほとんど水着あるいは裸(笑)。だから、描かれる季節は常に夏だ。

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もともとは小笠原出身の白人(19世紀移民の子孫)であるブライアンおじいちゃんと一緒に仕事をしていたのだが、物語冒頭でブライアンじいちゃんは亡くなってしまう。

じいちゃんの遺品から、約3年に一度、海流に乗って近海に現れるという「エレキテ島」の資料を発見。そしてエレキテ島宛の荷物も発見。

この荷物を届けることを名目に、みくらはエレキテ島探索を開始。なんと第1話の最後ですぐに見つかってしまう。しかし、チラ見だけ。うまいね、この辺。


同書1巻, pp.60-61

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1巻後半は3年後の再探索。海上や横須賀でいろいろ調査するあたりも面白いよ。走り回るだけが探索ではないのだ。

バックグラウンドとして、御蔵島中学時代の恩師・流郷先生(もエレキテ島を調べていたが現在行方不明)への淡い恋心も、物語に深みを与えている。

そしてそろそろエレキテ島が現れる頃・・・、と探索に出発するところで1巻は終わり。

1巻はストーリーに動きが多いので、非常に楽しめる。みくらちゃんもきれいだし。

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そして2巻。第2話で、なんとエレキテ島を発見し上陸。ここまでは早い展開。


同書2巻, pp.30-31

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この後は島の探索に入る。これだけの島で、めったに人に会わないのが解せないが、まあ作者は何か考えているんでしょう(だといいなあ)。

そうそう、荷物はどうなったか?届けることができたのか?これは本を買って確かめてほしい。

そして、あとは島をうろうろ。2巻は以上(笑)。


同書2巻, pp.76-77

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延々と島の風景(南欧の島みたいな風景)が続くが、これが作者が描きたかった絵なのだろう。セリフもなく、みくらの姿と島の風景がとにかく延々続くのだ。

さすがにツルケン・ファン以外にはお勧めできない展開だが、この作者らしいなあ。

この展開は、作者が島の風景を描き飽きるまで続くでしょう。まあツルケン・ファンはそれも楽しいんだと思うけど、オレはもう飽きた。

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意外に早く島に到達させてしまったので、この先の展開をまだ充分煮詰めておらず、しばらくは風景を描きながら展開を考えているような気もする。まあ、中途半端にあわてて話を進めるよりは、じっくり考えてから進めてほしい。

自分は、この人の設定が甘いところとちょっと相性悪い。あと、わりと飽きっぽい人なので、だんだん話がダレてくる。

冬目景とも似た資質。マンガを描くモティベーションが、ストーリー・テリングよりも「絵を描きたい」というマンガ家はどうしてもそうなる、のは知ってるからいいんだけど、この話はなんとか完結させてほしいなあ。

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まだ流郷先生も出てきていないし・・・。でも出てくるのかなあ?その辺も楽しみではある。

さて、3巻はいつ出るのだろうか?アフタヌーンの連載も飛び飛びで、おそらく描きためてはしばらく連載、その後1~2年休み、という繰り返しなので、この調子で続けるのだろう。

雑誌で追う気まではしないが、3巻も出たらまた買うぞ。2巻のように6年後に出たら御の字、10年後も覚悟してる。

結局出なかったら・・・その時は「まあツルケンだし」と思って諦めよう。

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ストーリー展開にちょっと不満があるとしても、この絵が気に入った人なら買って損はない。特にカバーの海の青が美しい絵が好きなら、持っていてカバーを眺めているだけでも十分楽しめると思う。

さて、次はいつ出るのか?それまでは、この絵を舐めるように隅々まで眺めて楽しむのだ!

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(追記)@2017/12/07

このマンガでは、バックグラウンドとして描かれている小笠原の白人系移民の子孫という設定が好きだ。

ブライアンじいちゃんはまんま白人のようだが、お父さん(ブライアンの息子)はハーフのよう。

みくらちゃんの顔には、特に白人っぽさはないが、スタイルの良さにその片鱗が伺える。といっても、ツルケンが描く女の子は、みんなこんな感じなんだけど。

登場人物では、1巻で2度出てくる(海洋生物研究所)所長が私のお気に入り。この人、コメディアンの大泉滉(1925-98)そっくりなのだ。大泉滉はロシア・クウォーター。

この所長先生も、小笠原の白人移民の子孫、あるいは外国人なのかもしれない。もしかすると、三宅島に長年住んでいた海洋学者Jack Moyer先生(1929-2004)がモデルなのかも・・・。

2017年12月2日土曜日

東京都美術館 「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」

に行ってきました。

・ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 公式サイト(as of 2017/12/02)
http://gogh-japan.jp/

ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 東京展 概要
会期 : 2017年10月24日(火)─2018年1月8日(月・祝)
会場 : 東京都美術館
住所 : 〒110-0007 東京都台東区上野公園8−36
アクセス : JR「上野駅」公園口より徒歩7分 東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分 京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分 ※駐車場はありませんので、車での来場はご遠慮ください。
開室時間 : 午前9時30分~午後5時30分 ※金曜日、11月1日(水)、2日(木)、4日(土)は午後8時まで ※いずれも入室は閉室の30分前まで
休室日 : 月曜日、12月31日(日)、1月1日(月・祝) ※ただし、1月8日(月・祝)は開室
観覧料 (税込) 当日(前売・団体) : 一般 1,600円(1,300円) 大学生・専門学校生 1,300円(1,100円) 高校生800円(600円) 65歳以上1,000円(800円) 11月15日(水)、12月20日(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料(要証明)。混雑が予想されます。 ※団体割引の対象は20名以上。 ※中学生以下は無料 ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料 ※毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は一般当日料金の半額 ※いずれも証明できるものをご持参ください
主催 : 東京都美術館、NHK、NHKプロモーション
後援 : 外務省、オランダ王国大使館
協賛 : 損保ジャパン日本興亜
協力 : KLMオランダ航空、日本航空
共同企画 : ファン・ゴッホ美術館
お問い合わせ : 03-5777-8600(ハローダイヤル)

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同展パンフレット, p.1


同展パンフレット, pp.2-3


同展パンフレット, p.4

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2017年11月18日土曜日 国立西洋美術館 「北斎とジャポニズム」展

とも連動した「Japonisme」をテーマにした展覧会です。

Vincent van Gogh(1853-1890)が、日本の浮世絵を模写したり、自分の絵に取り入れているのはつとに有名。

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今回の目玉はパンフレットp.1にもデカデカと取り上げられている

・Vincent van Gogh (1887) Japonaiserie : Courtesan (after Eisen)(日本趣味 : 花魁(渓斎英泉による))

これは、p.3左上にある

・渓斎英泉 (1820s―30s) 雲竜打ち掛けの花魁.

を左右裏返しにして丸写ししたもの。

何故裏返しになっているかというと、直接英泉の浮世絵を写したわけではないから。フランスの雑誌 Pari Illustré, no.45 & 46, 1886/5 が、この英泉を模写した絵を表紙に使った際に、表紙のレイアウトに合わせて絵を裏返し、Goghはそれを模写したらしいのだ。

その全てが展示されているので、その辺の経緯がわかっておもしろい。

しかし英泉の繊細な浮世絵と、ザクザクした荒々しい線が持ち味のGoghというのは実にミスマッチでおもしろい。

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「Goghと浮世絵」といったら、出てくるのは主に歌川(安藤)広重(1797-1858)だ。

風景画を得意とした広重は、「東海道五十三次絵」、「不二三十六景」などのシリーズ物で人気を得た。

広重の浮世絵も西欧にかなり流出し、その大胆な構図と色使いは、Japonismeに多大な影響を与えました。

上記「北斎とジャポニズム」展でカバーしきれなかった、広重のJaponismeへの影響の一端が、この展覧会で見ることができる、と思いきや・・・。

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Goghが模写している絵には広重のものが多いのです。

有名なのは、「名所江戸百景 亀戸梅屋敷」「名所江戸百景 大はし あたけの夕立」の模写。

ところが、今回、元絵の浮世絵は来ていたのですが、これを模写したGoghの

・Vincent van Gogh (1887) Japonaiserie : l'arbre (Prunier en fleurs)(日本趣味 : 梅の開花).
・Vincent van Gogh (1887) Japonaiserie : pont sous la sluie (日本趣味 : 雨の大橋).

が来てないではないか!ショック!

どちらもVan Gogh Museumの所蔵で、今回の展覧会は共同企画になっているのに・・・。せめてレプリカくらい展示があってもいいだろうに・・・。

図録にも入っていないので、Goghの代表的な浮世絵模写が把握できないという、重大な欠陥がある展覧会でした。

しょうがないので、

・ウィキペディア > フィンセント・ファン・ゴッホの模写作品(最終更新 2015年11月20日 (金) 08:10)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%83%E3%83%9B%E3%81%AE%E6%A8%A1%E5%86%99%E4%BD%9C%E5%93%81
・michiのひとりごと > ゴッホと広重を比較してみました・・・(作成日時 : 2012/10/28 12:44)
http://michi0103.at.webry.info/201210/article_84.html
・yumi takahashi 高橋ユミ *箱の詩学と美術綺譚* > 2016年6月26日 歌川広重「名所 江戸百景 大はしあたけの夕立」
http://yumitakahashi.ciao.jp/petitatelier/2016/06/26/%E6%AD%8C%E5%B7%9D%E5%BA%83%E9%87%8D%E3%80%8C%E5%90%8D%E6%89%80-%E6%B1%9F%E6%88%B8%E7%99%BE%E6%99%AF-%E5%A4%A7%E3%81%AF%E3%81%97%E3%81%82%E3%81%9F%E3%81%91%E3%81%AE%E5%A4%95%E7%AB%8B%E3%80%8D/

あたりで比較を楽しんでみてください。

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・Vincent van Gogh (1888) The Sower(種まく人)
(パンフレットp.2参照)

には、和風の梅のような形で木が描かれており、これもなかなか楽しい。画面の中央の大胆に木を横切らせるというのが、浮世絵の構図を取り入れたものらしい。

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「北斎とジャポニズム」ほど、比較に力を入れていないので、今ひとつわかりにくい点はあったが、それでもGoghが一時は日本の浮世絵にかなり入れ込んでいたことはよく理解できた。

個人的な所感だが、Goghが一番浮世絵から影響を受けたのは、「輪郭を描いてしまう」という技法じゃないか?と感じた。

Goghの絵の特徴の一つに、ぶっとく輪郭を描いてしまう作品が多いが、これ、他の西洋画ではあまり見られない。繊細な浮世絵の輪郭とは全く印象が違ってしまうが、もしかするとGoghなりに浮世絵の技法を消化した技なのかもしれない。

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まあ「浮世絵の影響」という観点では十分楽しめなかったが、今までGoghをちゃんと見たことがなかったので、いろいろ有名作品を見ることが出来たので、その意味では楽しい展覧会でした。

・Vincent van Gogh (1887) In the Café : Agostina Segatori in Le Tambourine(カフェ・ル・タンブランのアゴスティーナ・セガトーリ)
(パンフレットp.3参照)

は、この展覧会では、バックに浮世絵が描かれていることで展示対象となっているのですが、それとは別に、この歪んだ表情や、同じく歪んだテーブル・椅子がすごい迫力。これぞGoghだね。

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後半は、「日本人のファン・ゴッホ巡礼」というテーマだったが、こちらはほとんど興味がないので、ざっと見ておしまい。

Goghはマンガにもかなり影響を与えている。主にガロ系ですね。

代表は「つげ忠男」。他にも古川益三や安部慎一(アベシン)にもザクザクしたGoghのタッチの影響が見てとれる。

そしてそのタッチは、1970年代には「跋折羅」で活躍した劇画家(三宅秀典、伊藤重夫など)などに受け継がれている。

最近は、マンガでこういう絵なくなったなあ。ちょっと寂しい。

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しかしまあ、こういう

日本(浮世絵)→Gogh(Europe)→劇画(日本)

といった流れも考えつつ見ていくと、また別の楽しみ方ができる、という「ゴッホ展」でした。