2017年10月15日日曜日

森泉岳土 『報いは報い、罰は罰』

『A-A'』の途中ですが、新刊の紹介。

2016年12月31日土曜日 森泉岳土 『うと そうそう』
2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発

で紹介した森泉岳土(もりいずみたけひと)の新刊が出ました。

------------------------------------------

・森泉岳土 (2017.10) 『報いは報い、罰は罰 上・下』(BEAM COMIX). KADOKAWA, 東京.
← 初出 : 月刊コミックビーム, 2016年12月号~2017年9月号.


装幀 : 吉田昌平(白い立体)

------------------------------------------

いやー、今回の表紙は、白黒で何が描いてあるのかわからないグチャグチャの絵。森泉の真骨頂だ。最高です。

表紙でいきなり客を選ぶ、と思うけど、「最近の森泉絵は、端正になりすぎ」と感じていたので、初期のテイストが蘇ったこの表紙は、自分にはとても嬉しい。

書店の売り場に、禍々しい空気を存分に発散しているので、気持ち悪くて、「チラ見するのも嫌だ」という人もいるかもしれない。

自分は、最初、上・下巻の区別がつかなくて、「もう片方はどこだ?」と探してしまいましたよ(笑)。

------------------------------------------

カバーは、何と言うのか知らないが、しっとりしたマットな素材。これは汚れや煙をよく吸いそうだ。書店カバーはかけたままにしておこう。

この凝った装幀のせいもあり、この本かなり高い。各170ページくらい(正確にはわかんないんですよ)で1250円+税。でも迷わず買っちゃいましたよ。それだけ価値のある本です。

------------------------------------------

この本、ノンブル(ページ番号)がいっさいない。少年マンガでは、ほぼ全ページ断ち切りでノンブルがないのはあるけど、これはきっちり全コマがページ内に収まっているのに、だ。

当然、意図的なもの。マンガというより芸術作品として売ろうとしているのかもしれない。あるいは「ページ数など気にせず没頭してほしい」ということか?

------------------------------------------

内容は、長編ゴシック・ホラー。これだけストーリー性の強い長編作品は、森泉は初挑戦だ。

妹・真百合が、嫁ぎ先の洋館から行方不明になったと聞き、姉・真椿(まつばき)はUSAから帰国早々、山奥の洋館に向かうのだった。

そこで出会った洋館の怪しい一家。そして、冬の洋館で巻き起こる惨劇。犯人は?真椿は無事に帰れるのか?そして妹・真百合の行方は?

------------------------------------------


同書・上, はじめの方

2ページ目の絵からして、もう怖すぎなんですけど(笑)。

------------------------------------------

推理ものの要素も少しあるが、悩む間もなく、わりとあっさり明らかになってしまうので、これはやっぱりホラーものだ。犯人もそれほどひねりはない、と感じるかもしれない。

「冬の洋館での惨劇」というと、小説 Stephen King (1977) SHINING、あるいは映画 Stanley Kubrik(dir) (1980) SHINING(シャイニング)を思い出すかもしれないが、このマンガもかなりその影響を受けていると思う。

それだけではなく、作中には様々なホラーの類型が散りばめられていて、作者がホラーものをよく勉強していることがわかる。その分、ホラーとしてのオリジナリティは少し弱い気がする。登場人物もちょっと類型的かな。

しかし、そんなことはあまり気にする必要はない。森泉くらいの超絶画力で、本気で読者を怖がらせようとしたら、底知れぬ恐ろしい絵が出てくる、という事実を楽しんでほしい。

ホント、どのページも怖すぎだよ。


同書・下, 前半

------------------------------------------

今回人物画は、おそらく意識的にちょっと劇画調にしてある。誰かの絵にそっくりのような気がするんだが、思い出せない。石井隆や丸尾末広のテイストはかなり感じる。

端正な表情だけでストーリーを進めることが多い森泉だが、ホラーともなると、驚き、恐怖、疲労の表情など、バラエティに富んだ森泉人物画が楽しめる。相変わらず「汗」を感じさせる絵はないが、まあそれはそういう作風なんで・・・。

------------------------------------------

ぜひ挙げたかったのだが、ネタバレになるのでわざと挙げなかった絵が、上巻後半の惨殺シーン。これはもうスゴすぎて、声も出ない。日本マンガの至宝ですね。おそらく何年か後には、あちこちで真似されるでしょう(特にFranceのband decinée方面で)。

最初に描いたように、この作品では、どうやって描いているのか想像もつかない、森泉流背景が圧倒的だ。暗がりの多い洋館、夜のシーンの多さ、森泉テクニックが存分に発揮されている。

コンピュータ上の画像処理ではなさそうな、暗闇のボカシの多用も、この洋館に漂う禍々しさをよく表現している。これに気が滅入る人もいるかもしれないな。

------------------------------------------

ストーリー展開では、ちょっとタイミングよすぎでお芝居くさい、とか、主人公が転落するシーンはちょっと無理がある、とか感じる所もあるかもしれないが、何せこの絵で、この勢いで、描かれると、もう圧倒されてしまい、ぐいぐい引き込まれる。

今後、ネット上ではネタバレっぽいレビューもかなり出てくると思うので、早いこと買って、まっさらな状態で読むことをお勧めします。

いやあ、次はどんなマンガを描いてくれるんだろう。楽しみでしょうがない。

0 件のコメント:

コメントを投稿