2017年10月11日水曜日

萩尾望都 『A-A'』(1) 一角獣種とは何か?

先日、雪崩が起きまして。いや室内で(笑)。

それで地層の下部に埋設されていたものが多数発掘されました。これがその一つ。

・萩尾望都 (2003.9) 『A-A'』(小学館文庫). 308pp. 小学館, 東京.


カバーデザイン : 小松美紀子+ベイブリッジ・スタジオ

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これは、「一角獣種シリーズ」3作(1981~84)を中心として、「ユニコーンの夢」(1974)、「6月の声」(1972)、「きみは美しい瞳」(1985)を収録した作品集。

「一角獣=ユニコーン」ということで、「ユニコーンの夢」が収録されたのだと思うが、内容は「一角獣種シリーズ」とは関係ない。他の作品も関係ない。

ここでは「一角獣種シリーズ」についてのみ触れる。

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先に初出と書誌を、

初出:

・「A-A'」. プリンセス, 1981年8月号.
・「4/4 カトルカース」. プチフラワー, 1983年11月号.
・「X+Y 前編」. プチフラワー, 1984年7月号.
・「X+Y 後編」. プチフラワー, 1984年8月号.

収録:

(1) 萩尾望都 (1984.11) 『A-A'』(萩尾望都作品集17). 小学館, 東京.(「一角獣種シリーズ」3作を収録)
(2) 萩尾望都 (1995.9) 『A-A' SF傑作選』(小学館叢書). 小学館, 東京.(「一角獣種シリーズ」3作+7作を収録)
(3)萩尾望都 (2003.9) 『A-A'』(小学館文庫). 小学館, 東京. (「一角獣種シリーズ」3作+3作を収録)

(2)と(3)は、「一角獣種シリーズ」以外の収録作として「ユニコーンの夢」、「6月の声」が共通している。

参考:
・萩尾望都作品目録 > 作品目録(as of 2017/10/07)
http://www.hagiomoto.net/works/

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「一角獣種シリーズ」は、地球人が太陽系の外惑星(火星・木星系・土星系)~太陽系外に進出している時代のお話。つまりSFだ。

シリーズを通して「一角獣種」という種族が登場する(必ずしも主人公ではない、というか単独の主人公にしづらい)。

「一角獣種」とは、同じ地球人類なのだが、宇宙開拓黎明期(21世紀はじめ)に、宇宙開拓に向くよう遺伝子操作で開発された種族。

シリーズ中に、断片的に「一角獣種」についての説明があるが、意識して整理しておかないと、よくわからなくなる。

その説明を抜き出して、「一角獣種」の設定を整理しておこう。

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「A-A'」

p.16
チャイ「ン・・・まァ しようがないなァ。 もともと アデラドは無愛想の型(タイプ)だし・・・。 なんせ 赤いたてがみの一角獣種の生き残りだものな。」
無名「21世紀初頭に 宇宙旅行のため開発された 遺伝子変異種でしょう? 風変わりなのよね。」

p.19
初代アディ「レグ・ボーン。わたしは とてもめずらしい種族なんだそうだ。」
レグ「一角獣種? いい名だ。 はじめて聞くが。」
初代アディ「わたしも 成長して宇宙開発計画に参加するまで 知らなかった。この髪は ただの色ちがいだと思っていた。 わたしの種は 盛り上がった頭部と そこの赤いたてがみが特徴で 一角獣と名づけられた人工の変異種だそうだ。ごくたまに わたしのように 隔世遺伝であらわれる。」

p.22
ジェルミ「あなた 地鳴りを聞いたのね? アデラド。」
レグ「おい!熱くないか。こんなに湯をかぶって。」
二代目アディ「別に・・・。」
レグ「医務室だ! おいで アディ!」
無名1「思い出したぞ!一角獣種は 視聴覚範囲が我われと少しずれてるのだった!」
無名2「遅い!」

p.28
レグ「たそがれのムンゼル というのは当たっているな。こう見ると淡く青くぼやけていて。」
二代目アディ「私の目には 明るく遠くまで見渡せる。」
レグ「・・・ああ。」
レグ(内面)「彼女の目には 暗い光も明るく見える。赤外線の波長まで見えるはずだ。」

p.44-45
チャイ「さあ いいかね?宇宙旅行用に開発された一角獣種がだな? なぜ土星に帝国をつくれなかったと思う? 問題は はきけだ! パンはあるのに はきけで食べられなくなり きまじめに仕事をつづけ コロコロ餓死したんだ。 拒食症だが きみの種は ストレスからすぐこれにかかりやすい。おまけに動きはにぶいし 注意力はない。ああ世話がやける。」
ジェルミ「前も病気にかかったのよ。 3年前はね わたしたちは みんなであなたにとまどってたのよ。 一本調子のしゃべりかた。泣き笑いも 怒りもしないお人形・・・。 どう接していいやら・・・。 誰もがあなたを無視してた。 あなたもわたしたちを無視してた。 そしたらレグが気づいたの。あなたが15日間なにも食べてないって。 あなたはちゃんと対応していたのね。感情もある。 ただ 表現のサイクルが ふつうの人とちがうので・・・ふつうに泣き笑いをしないので・・わたしたちにはよくわからないのよ。」

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「4/4 カトルカース」

p.58
モリ「マム 一角獣種ってなにさ」
ママミア「百年以上前につくられた改良種よ。ほら 核戦争のころね。わたしが鳥の改良種をつくってるように 人間をつくった時代があったのさ。 その子孫だろう。いまどき純血種ってのはめずらしいねえ。」

p.60
サザーン博士「またか。いや しょっちゅうなんだよ。走りだすと止まれないんだ。不器用で。」 

p.61
サザーン博士「だいたいこの種は 環境不適合型で短命なんだ。」

p.61-62
モリ「赤いオーロラが出てんですよ。上のほう。」
サザーン博士「---赤いオーロラ? 暗くて見えんがね。一角獣種は赤外線光波が見えるんだ。------赤外線オーロラが出てるんだろう。」

p.65-66
サザーン博士「気のせいさ。一角獣種には感情などないんだよ。」
モリ(内面)「!」
サザーン博士「もともと コンピューターを扱うために開発された種なのだ。感情がなければミスもない というわけさ。」
(中略)
サザーン博士「人は何からできているか? それは四つの断片よりなる。理性 知性 経験 これらはいいさ。 最後に感情! 非論理的 非生産的な感情! しかるに一角獣種はなにからできているか?数式 記録 記憶 記号!彼らはすばらしき未来人だ!」

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「X+Y」

p.105
ザーズ「なんでもないんだ。ただ このゆーずーのきかない一角獣種が---。」

p.108
メリメ「ここがあなたの部屋?」
タクト「そう 彼の。」
(中略)
メリメ「(前略)そのへんな三人称だけのしゃべりかたも慣れるわ。」

p.114
ジョージ「うううむ!わしは彼を7歳のときから知ってるが いまだにようわからん。」
アンアン「ああいう無反応って一角獣種特徴なの? おしゃべりザーズと比べて単におとなしい子だと思ってたのに・・・。」
ジョージ「らしいが・・・。 よくわからん。隔世遺伝の珍種だからなァ 一角獣種というのは。」

p.138
モロゾフ先生「一角獣種が かなり多く頭から出している波長に アルファ波があります。 これは5歳未満の幼児に多く見られるものですが モリはこのアルファ波によく反応します。」

p.149
モリ「おまえに なにが"わかる"んだ! おまえは少しでもオレの気持ちを"考えて"いるのか! "考えて"ない! "わからない"ことは "考えない"からな。」
タクト「・・・ なにを怒っているのだ。モリ。」
モリ「おまえがオレをふったからだ!」

p.154
ザーズ「タクトは ウソや冗談がいえるほど 情緒教養度高くないんだ。」

p.155
ザーズ「あせんなよ。あいつは人見知りするんだ。一角獣種ってそうなんだよ。」

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少し補足を。

物語の舞台がいつなのかはわからないが、「一角獣種」が作られた21世紀初頭から100年以上後の時代。人々の間では、その記憶も薄れている。

その21世紀初頭には核戦争があったらしいが、本連作では語られるだけで、ストーリー展開に影響を与えない。

21世紀初頭以降、「一角獣種」が新たに作られることはなく、現在「一角獣種」という種族が独立して存在しているわけではない。

「一角獣種」は、他の地球人類と同一種(重要な遺伝子は完全に一致)。なので、他の地球人類とは普通に婚姻・生殖が可能。物語の現在は、他の地球人類と婚姻が進み、「一角獣種」というまとまった種族は存在していない。しかし隔世遺伝により、時おり「一角獣種」の特徴を持つ子が生まれてくる。

ある時、「一角獣種」たちは土星に帝国を作ろうとして失敗したらしい。映画「ブレードランナー」の「レプリカントの反乱」みたいだ。

遺伝子操作の目的は、情緒を抑制し、論理的な作業の効率を上げ、人為的ミスを減らすこと。集中力がすごい。

遺伝子操作の副作用として、身体的な特徴(頭部中央が盛り上がり、その部分の髪が赤くなるため、トサカのように見える)、感覚異常(赤外線が見える、聴覚に優れる、温度変化に鈍感)、運動能力異常(にぶい、反射的な運動が苦手)、ストレスに弱く拒食症になりやすい、などの特徴がある。これは、遺伝子操作で意図して発露させたものではない。

なんといっても、精神面で、情緒(泣く、笑う、怒る)・表情の変化に乏しい、相手の考えていることが想像できない、従って表面上は、常にぶっきらぼうな態度、相手を傷つけるような発言が多い、何を考えているのかわからない、といった形として現れるのが大きな特徴。そのため、この面で周囲と軋轢が生じやすい。

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萩尾先生のすごいところは、「一角獣種」の歴史だけで1冊分描けるくらいの設定を作っておきながら、これをメインテーマにはせず、重要ではあるがシリーズの背景としてしか使っていないところ。

贅沢すぎる!

おそらく、もっともっと詳しい設定があるはずだ。もったいないなあ。マンガじゃなくて小説でもいいから、これまでの一角獣種の歴史=「一角獣種サーガ」を残してほしいなあ。

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この「一角獣種」の性格、発達障害の一種「アスペルガー症候群(AS)」に似ているということで評判なのだが、私も読んですぐそう思った。

その話題は最後にするとして、次回は各エピソードを見ていこう。

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