2017年4月29日土曜日

藤本正二 『終電ちゃん 3』

ここんとこ、毎日マンガを買ってるわけなんですが、4月は新刊多いのかね。

・藤本正二 (2017.4) 『終電ちゃん 3』(モーニングKC-2705). 158pp. 講談社, 東京.


装丁 : 杉本智之(uni-co)

今回の表紙は、「小田急線の終電ちゃん」。

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2巻よりは、「中央線の終電ちゃん」の出番が多くてよかったな。

「各地の終電ちゃん」紹介路線は、実はあまり好きじゃないんだが、忘年会でみんな集まる回は、なかなかおもしろかった。東宝怪獣総出演の映画『怪獣総進撃』(1968年)みたいで(笑)。各終電ちゃんのキャラ設定に細かく気を使ってるのに、あらためて感心したよ。

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同書, p.43

珍しく、こういうアングルに工夫した大ゴマのアクション・シーンにも挑戦しているし、これから絵もどんどんうまくなるんだろう。

ちなみに、これは、初登場の東京メトロ大江戸線の終電ちゃん。

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でもやっぱり、この人の持ち味は巻末「JTB時刻表」に掲載された話のような「ベタな人情話」だと思う。モーニングよりもビッグコミック・オリジナルあたりが似合いそうな・・・。

狂言回し・寺岡の出番はこれくらいの頻度で充分かもしれない。

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このマンガ、もう少し追っかけてみよう。

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(追記)@2017/04/29

『終電ちゃん』1・2巻の話はこちらでどうぞ↓

2016年9月25日日曜日 『終電ちゃん 2』発売!
2016年8月16日火曜日 終電ちゃんに叱られたい

2017年4月27日木曜日

冬目景 『空電ノイズの姫君 1』 欠落だらけの物語

1年ぶりの冬目景姉さんの単行本が出た。

・冬目景 (2017.4) 『空電ノイズの姫君 1』(バーズコミックス). 187pp. 幻冬舎/幻冬舎コミックス, 東京.


cover design : Tamura Keiichiro(makena graphics)

「自信なさげなオチビちゃん」と「ロング黒髪の謎美人」という、冬目景作品ではおなじみのキャラが主人公。

どっちかというと、オチビなのにギターがプロ級にうまい(磨音(まお))ちゃんがメイン。謎美人(夜祈子(よきこ))は、まだ脇役の域を出ていないが、2巻以降メイン・ストーリーにどうからんでくるのか楽しみ。

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絵は例によって文句なし。どれも見たことあるようなキャラばかりだが、この人はこういう描きなれたキャラで見せてくれる安定感が持ち味(になってしまった、というべきか・・・)。

マオちゃんのギターを弾く姿は、カワイイ上にカッコイイよね。


同書, p.156

普通は「長くつしたのピッピ」頭だが、ギターに熱中すると、天パ頭爆発になる。これは本現物で見てくれ。

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それにしても、このマンガは「欠落」だらけ。どの登場人物も、「家族や仲間の欠落」をかかえている。

(1) マオちゃんは、母親が不在(離婚だけど)。

(2) マオちゃんの父親(ミュージシャン)は、かつてバンド・リーダーが死んでバンド解散。

(3) 夜祈子は、家族自体がいない(お婆ちゃんだけ遠くで入院中)。その上、慕っていた謎の叔父さんも外国で消息不明。

(4) マオちゃんをバンドに誘っている高瀬と日野は、ヴォーカル+ギター(高瀬の弟)が事故死でバンド解散の危機。

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今のところは(4)が機能して物語を動かしているが、いずれ(1)~(3)も発動するのだろう。特に(3)の発動が展開のキーになりそうな気がする。

もしかすると作者も、夜祈子をどう動かしていくか、まだ考え中なのかもしれない。

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まあ何はともあれ、新刊が出たことを喜びたい。

あとは完結までダレずに続けてくれれば満足。全4巻くらいと予想(それ以上続くと、物語をたたみきれなさそうだから・・・)。

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(追記)@2017/05/06

ピッピ頭とロング黒髪のコンビって、なんか見たことあるな、と思っていたのだが、わかったよ。

・石黒正数 (2008.5) 『ネムルバカ』(RYU COMICS). 210pp. 徳間書店, 東京.
← 初出 : COMICリュウ, 2006年10月号~2008年3月号.


装幀 : 宮村和生(510design.)

の鯨井ルカ先輩と後輩・入巣柚実だ。ピッピ頭が鯨井先輩。これもロックだし、『空電ノイズ・・・』発想のヒントになってるのかもしれない。

なお、この二人は現在『木曜日のフルット』に転生して、鯨井先輩(ルックスは紺先輩になってるが)と後輩・頼子のコンビで活躍中。こっちもおもしろいよ。特に鯨井先輩のダメっぷりと貧乏っぷりが。

2017年4月24日月曜日

府中市美術館 「歌川国芳 21世紀の絵画力」展 2回目

2017年3月29日水曜日 府中市美術館 「歌川国芳 21世紀の絵画力」展

で宣言した通り、2回目に行って来ました。大満足でした。


同展パンフレット, 外3面

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今回も冒頭で出迎えてくれた「通俗水滸傳百八人」シリーズ。後期展示も、当然ながら素晴らしい作品ばかり。

いったい体がどうなっているのやら、さっぱりわからないながら、ものすごい迫力の「黒旋風李逵」、原典「水滸伝」では地味な存在なのに、国芳画では存在感たっぷりな「急先鋒索超」など、いきなり充実した内容だ。

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次の役者絵コーナーでは、なんといっても「四代目中村歌右衛門死絵」のどでかい顔が見もの。いやあ、迫力だあ。

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そして、「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」ついに見ました。国芳は、他にもこういった「裸体寄せ絵」をたくさん描いているが、やはりこの「みかけハ・・・」は別格の完成度であることが、あらためてわかった。

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さらに「相馬の古内裏」。上記パンフレットの右下、巨大ガイコツですね。現物はやっぱりすごい、そして美しい。

今回は、隣に杉田玄白・著, 大槻玄沢・重訂, 南小柿寧一・画, 中伊三郎・版刻 (1826) 『重訂解体新書図編』(これもはじめて見た!)が置いてあり、この絵の解剖学的な正確さを確認させてくれた。

もう至れり尽くせりの展示です。

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「宮本武蔵と巨鯨」も後期のみの展示。いやあ感動ですね。

この絵を描くシーンは、マンガ『ひらひら 国芳一門浮世譚』でも取り上げられていますから、そちらも是非どうぞ。

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同展パンフレット, 内3面

とにかく、これだけ充実した展覧会はめったにない。おまけに2回見てもわずか1050円なのだ。他の展覧会1回分よりまだ安い。

こりゃあ、見ない手はありませんぜ。

遠くに住んでいる方も、連休中に無理に遠出してでも見る価値は絶対あります。まさに「見逃すな!」。

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もし見逃したら、しゃーない。その時は図録を買いましょう。一般書店で市販されています。

・府中市美術館(金子信久+音ゆみ子)・編著 (2017.3) 『歌川国芳 21世紀の絵画力』. 287pp. 講談社, 東京.


ブックデザイン : 島内泰弘デザイン室

図録の充実ぶりも異常なほどです。展示に忠実な構成・レイアウトなので、行けなかった人もかなり満足できるでしょう。

2017年4月22日土曜日

サントリー美術館 「絵巻マニア列伝」展、特に「放屁合戦絵巻」

前回の「暁斎展」を見たあと、渋谷から六本木に移動して、この「絵巻マニア」展を見たのでした。展覧会のハシゴ。

東京ミッドタウンははじめて行ったのだが、どこも高級すぎて私には無縁の店ばかり。サントリー美術館くらいか、用があるのは。

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・サントリー・ホールディングス/サントリー > 文化・社会・スポーツ > 芸術・文化・学術 > サントリー美術館 > 展覧会 > 六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝(as of 2017/04/22)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_2/


同展パンフレット/ポスター, 表

「開館10周年記念展 絵巻マニア列伝」
会場 : サントリー美術館(六本木・東京ミッドタウン ガレリア3階)
会期 : 2017年03月29日 ~ 2017年05月14日
入場料 : 一般 当日 1300円(前売 1100円)  大学・高校生 当日 1000円(前売 800円)
開館時間 : 10:00から18:00まで 金曜日は20:00まで, 土曜日は20:00まで
休館日 : 火曜休館 火曜日が祝日の場合は火曜日開館、翌日休館
住所 : 〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンサイド
電話 : 03-3479-8600
ファックス : 03-3479-8643
アクセス : 都営地下鉄大江戸線六本木駅直結, 東京メトロ日比谷線六本木駅と直結予定, 東京メトロ千代田線乃木坂駅から徒歩約3分

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これは図録↓

・サントリー美術館・編集 (2017.3) 『開館10周年記念展 絵巻マニア列伝』. 239+VIIIpp. サントリー美術館, 東京.


デザイン : 高岡健太郎(日本写真印刷コミュニケーションズ)

表紙デザインがシンプルすぎる。絵巻を入れたものにしてほしかったが、もしかすると予算が尽きたか?

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この展覧会は、絵巻を愛好したり、保護したりした人々が残した文献を示しながら、絵巻の歴史をたどる、というユニークな企画。

絵巻物となると、一般には「美術」というより「日本史」の文脈で紹介されるケースが多く、通常の美術展よりはとっつきにくいかもしれない。

そのせいか、無茶込みだった「暁斎展」に比べ、休日なのにそこそこの入りで、じっくり観覧することができました。

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この展覧会に行った主目的は、「放屁合戦絵巻」「福富草紙」。どちらも「屁」を題材とした珍しい絵巻。

こういった絵巻では、幕末の「屁合戦絵巻」(早稲田大学所蔵)が一番有名。

・早稲田大学 > Academics 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 Collections & Publications : 古典籍総合データベース > 屁合戦絵巻(as of 2017/04/22)
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/chi04/chi04_01029/

で見ることができる。

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サントリー美術館の「放屁合戦絵巻」の方は、平安時代12世紀中頃の定智・筆の原本を、室町時代1449年に模写した模本。原本は現存しない。

平安末期の風俗を知る上でも重要な作品なのだが、そんなことよりあまりの下らなさに、笑いをこらえられない。


同展図録, pp.94-95, 図版38

調べてみたが、同絵巻を概観できるサイトがなかったので、低解像度で図録図版を紹介します。新たに同絵巻の全貌を見ることができるサイトが出てきたら、これは消します。

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巻頭では、坊さんたちが豆を食べたり、全裸で腹ばいになって腹を冷やしたりと、放屁の準備に余念がない。

そうして始まった放屁合戦。着衣では屁の勢いが衰えるので、尻だけ丸出し、あるいはなぜか全裸(笑)。間抜けだ。

屁は放物線、というより直線で描かれ、そのすごい勢いが伺える、ってまあこれは誇張なのだろうけど。

屁を扇でよけるわ、帽子が屁で飛ばされるわ、陰部丸出しで全裸でんぐり返しをする男はいるわ、大勢の屁を袋に詰めて一気に吹き出すわ、大騒ぎ。

最後は、この放屁術師範らしい老尼さんが出てきて、屁で扇を割る模範演技を見せて終わり。

なんだこりゃ!

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実はこの老尼さん、放屁曲芸の達人・高向秀武(たかむこのひでたけ)の娘だとされている。

その高向秀武と、これを真似しようとして失敗する福富の物語(いわゆる「正直爺さん・意地悪爺さん」譚の一種)を描いた「福富草紙」(15世紀)が、この「放屁合戦絵巻」と一緒に展示されている。

しかし、この高向秀武、その娘の放屁術師範、実在したのだろうか?絵巻の内容を見ると、とても現実のことには思えないが・・・。

そんなことも考えてしまうこの展示、「屁」ファンには必見。

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「放屁合戦絵巻」はサントリー美術館の所蔵なので、いずれまた公開される時があるだろう。その時に、また見に行きたい。

また、こういった「放屁合戦絵巻」はいろんな時代、あちこちにあるらしいので、一度、それらを一堂に会した「放屁合戦大絵巻展」を開催してほしい。これはサントリー美術館の仕事になるでしょう。

図録収録の

・上野友愛 (2017.3) 数寄から広がる絵巻好き. サントリー美術館・編集, 図録『開館10周年記念展 絵巻マニア列伝』所収. pp.191-193. サントリー美術館, 東京.

も必読。

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他にも貴重な絵巻が続々登場。


同展パンフレット/ポスター, 裏

複製とはいえ、「伴大納言絵巻」(平安時代12世紀)を見れたのはよかったなあ。右から左へと時間が進んでいく展開、モブの描き分け、人の向きが意味する所、など絵巻の基本を学ぶにも最適な素材です。

他に印象的だったものを上げておくと、

「病草紙断簡」(平安時代12世紀)-変な病気の人を描いた草紙

「後三年合戦絵巻」(室町時代1347年)-平安時代奥州での戦を描いた絵巻、保存状態は悪いが迫力ある

「九相図」(鎌倉時代14世紀)-死体が腐っていく様を描いた気持ち悪い絵巻。前期展示はその江戸時代17世紀の模本だったが、原本に非常に忠実

「玄奘三蔵絵」(鎌倉時代14世紀)-そんな古いのものとは思えない保存のよさ。色彩の美しさに目を見張る。

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松平定信が絵巻保存、修復、模本作製に大きな功績があったことは、今回はじめて知った。まさに絵巻マニアだ。

「蒙古襲来絵詞」(鎌倉時代13世紀)もそんな定信のすすめで、熊本藩から江戸に運ばれて模本が作成されることにより、広く知られるようになった。

現在は宮内庁所蔵であるその原本が、今回観覧できるのだ。実に感動ですよ。歴史の教科書でしか見たことのないあの武者絵が目の前に。

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この展覧会の趣旨である、文献に記された記録とともに絵巻を楽しむ、という点では、古文書の筆使いを見るのも楽しい。なかなか読めないけど。

地味ながら、すごく面白い展覧会でした。是非どうぞ。

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展覧会に行く前に、この辺で予習しておくのもいいですよ。

・ほぼ日/ほぼ日刊イトイ新聞 > ほぼ日手帳2017spring > ほぼ日手帳マガジン > サントリー美術館学芸員・上野友愛・談/見方がわかれば、おもしろい!絵巻-emaki-の世界1~3(2017-04-14-FRI~04-16-SUN)
http://www.1101.com/store/techo/ja/magazine/2017/emakinosekai/2017-04-14.html?device=pc
・産経新聞社/産経ニュース > ライフ > 学術・アート > 産経新聞文化部・黒沢綾子/2017.4.22 11:00 【展覧会に行こう!】 「絵巻マニア列伝」 下ネタも不眠の悩みも…いにしえのオタクたちの愛好品から見えるのは今と変わらぬ姿
http://www.sankei.com/premium/news/170422/prm1704220021-n1.html

2017年4月19日水曜日

Bunkamuraザ・ミュージアム 「これぞ暁斎!」展

今年の春は、日本画展覧会大当たりの年で、「国芳」展、「雪村」展に続いて、観覧するのはこの「暁斎」展で3つ目だ。

実はこの日は、もう一つ展覧会をハシゴしたのだった。それは次回。

「国芳」展、「雪村」展とも後期にそれぞれもう一回行く予定だし、ほんともう忙しい。だけどうれしい。

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・東急文化村/Bunkamura > 展覧会 > ザ・ミュージアム > これまでの展覧会 > 2017年の展覧会 2/23(木)-4/16(日) ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_kyosai/

「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」
開催期間 : 2017/2/23(木)-4/16(日) ※会期中無休
開館時間 : 10:00-19:00(入館は18:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場 : Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷)
主催 : Bunkamura、フジテレビジョン、東京新聞


同展パンフレット, p.1

なんとか会期末に滑りこむことができた。しかし、まあすごい人出。大手企業+大手マスコミ主催展覧会の集客力をあらためて思い知った。

とはいえ、暁斎はいつからこんなにメジャーになったのか?驚くばかりだ。

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暁斎の絵はこれまでも、いろんな展覧会で見てきたが、これだけまとまった作品数を見るのは初めて。今回はUKのコレクターIsrael Goldman氏蒐集による暁斎コレクション。

展示数もすごい。ただでさえ、濃い絵を描く暁斎がこれだけズラリと並んだのですから、もうお腹いっぱいでした。

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同展パンフレット, p.2-4.

特に、展示前半、見ても見ても果てしなく続く「鴉図」に圧倒された。溌墨タッチで描かれる枝と鴉はまさに名人芸。また薄墨の使い方も大胆かつ細やかだ。

思ったより錦絵は多くなかったな。今回の展覧会は原画が多い。錦絵だと、描き込みの多い線から、どぎつい色からして、ほんとに濃い絵。

あこがれの「墨合戦」をようやく見れて感動。「放屁合戦」はなぜか見逃したかも。豆本だったからなあ。惜しいことをした。実は同じ日に別の美術館でもう一つ(というか、こっちが元祖)の「放屁合戦」を見ていたのでした。

名作の呼び声も高く、今回の展覧会の目玉でもある「地獄太夫と一休」、「百鬼夜行図屏風」。いやあ迫力ですね。ようやくこれが間近で見ることができたか・・・。

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これは図録

・及川茂・構成 (2017) 『これぞ暁斎! ゴールドマンコレクション』. 286pp. 東京新聞, 東京.


デザイン : 桑畑吉伸

それにしても多彩・多作な人だ。本格水墨画から彩色画、錦絵、挿絵、豆本、そして春画まで。

春画がきちんと展示されていたのにはちょっと驚いた。昨今の春画ブームのおかげなんだろうけど。春画もようやく芸術作品として、社会的に認知されてきたことを喜びたい。

春画って、今見るとエロさはもはや感じないよね。おもしろさとグロさは感じるけど。

若い女性も平気で春画をじっくり見ていたのには感心した。いいぞ、日本の女衆。

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さっきも描いたけど、とにかく暁斎は多作すぎる。今回の展示品だってほんの一部だ。「釈迦如来図」、「大和美人図屏風」などまだ見たことない名品が山のように残っている。そのうち、埼玉県蕨市にある河鍋暁斎記念美術館にも行ってみよう。

暁斎展は、東京のあと高知、京都、金沢と巡回する。これらの地域の皆さんは、是非お見逃しなく。

2017年4月15日土曜日

kashmir 『てるみな』/『ぱらのま』

・kashmir (2013.4) 『东京猫耳巡礼记 てるみな 1』. 149pp. 白泉社, 東京.
← 初出 : 楽園, no.5-10[2011.5-2012.10]/楽園Web増刊, 2011/4-2012/12.
・kashmir (2015.2) 『东京猫耳巡礼记 てるみな 2』. 149pp. 白泉社, 東京.
← 初出 : 楽園, no.11-16[2013.2-2014.10]/楽園Web増刊, 2013.4-2014.12.


装丁 : 平谷美佐子

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猫耳小学生が主人公の萌えマンガかと思いきや、中身はこんな ↓


同書1巻, p.67

だったり、こんな↓


同書2巻, p.95

だったりする。

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2016年8月9日火曜日 panpanya 3連発
2016年11月29日火曜日 panpanya 『動物たち』

で紹介したpanpanyaと似た異様に描き込んだ背景が特徴。これに「乗り鉄」、「不気味ファンタジー」、もちろん「ロリ萌え」要素も加えたテンコ盛りの内容。濃いマンガだ。

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「楽園」誌では2011年から連載されていたが、2013年に同系統のマンガを描くpanpanyaも楽園に登場し始めたせいか、本誌では一旦終了。今はWeb増刊で、「てるみなneu」として連載継続中。

panpanyaが相手では分が悪い。kashmirの画力もなかなかのものだが、panpanyaにはやや及ばない。画材(おそらくデジタル?)のせいもあるんだろうけど、まだまだ白っぽくて、禍々しさがちょっと足りないかな。

まあ、そこが、panpanya、そして両者のルーツとなっている逆柱いみりよりもポピュラリティのある所以なんだけど。

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こうして比較してみると、「てるみな」は結構ガロっぽい。時にオチをぶん投げたような回があるし、かなり感覚的。panpanyaは意外にオチをちゃんとつけるし、必ずストーリーがしっかりあるのだ。

どうしても比較してしまうので、kashmir氏には申し訳ないが・・・。

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しかし、


同書1巻, p.118

のように気持ち悪い寄生虫ネタもあるし、


同書2巻, p.79

ローカル(ここでは「東京都」町田市)あるあるネタもあるし、多彩な作風。いろんな才能あるよね。

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なんといっても、現実の東京近郊鉄道路線をモデルとしてはいるが、妄想で7倍位に膨らませた異様な鉄旅が、このマンガの見どころ。

線の高尾山頂直通列車、寄生虫に導かれて西線のお稲荷さんに連れて行かれる話、ゆりくらげ線、町田解放同盟なんかは大好き。

「鉄」要素はないけど、秋葉原の地下へ地下へと潜る話もすごくいい。この辺がkashmir作品の醍醐味。

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「楽園」本誌では、今は「ぱらのま」を連載中。

・kashmir (2017.2) 『ぱらのま 1』. 141pp. 白泉社, 東京.
← 初出 : 楽園, no.17-22[2015.2-2016.10]/楽園Web増刊, 2015.4-2016.12.


装丁 : 平谷美佐子

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こちらは主人公の年齢も上がり、また、異様な風景も抑えた、まっとうな「乗り鉄」というか「国内旅行」マンガ。鉄分かなり多めだけど。


同書1巻, p.7

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この主人公の原型は、すでに「てるみな」にも出てきていた。

この茫洋としているようで、オタク・マインドにあふれた内面は素晴らしい。孤独をものともしないクールさもいい。このキャラ、どっかで見た他のキャラとよく似てるような気がするんだが、誰だか思い出せない。

最後に登場したメガネ女子は、はたしてレギュラーとなるのか?このへんも見どころだ。

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ところでタイトルの「ぱらのま」って、なんだ?「panorama」のアナグラムなのか?「paranormal(超常(現象))」なのか?謎だ。

そういえばペンネームのkashmirも謎だ。これはやはり3D地図ソフトから来てるんだろうか?地図オタクらしいし。

2017年4月12日水曜日

『絶対安全剃刀』の表紙は高野文子の絵ではない?

前々回の

2017年4月7日金曜日 高野文子 「早道節用守」

で取り上げた

・高野文子 (1982.1) 『高野文子作品集 絶対安全剃刀』. 198pp. 白泉社, 東京.


装幀 : 南伸坊/小倉敏夫

ですが、これは初版第一刷以来、いまだに装幀や編集を変えずに、そのまま流通しています。これはすごいことなんですよ。発売以来、新装版など出す必要がないくらい、常に売れ続けているわけですから。

で、今回その装幀をチェックしていて、とんでもないことに気づいてしまいました。ちょっとショックでもあります。

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装幀者には、南伸坊/小倉敏夫とお二人の名前が出ています。はて、なぜ二人?

小倉敏夫さんは、北村薫の創元推理文庫シリーズの装幀で知ってるが、そのイラストが高野文子だった(人物のポーズが全部同じやつ)。おそらくこの本の装幀をきっかけに、縁ができたものと思われる。

でもなぜ南伸坊まで??装幀に二人がかりも必要ないだろ。

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で、よくよく見ると、裏カバーのカミソリのイラストは南伸坊の絵だ。この特徴的な、律儀で人懐っこい字と線は間違いない。


同書, 裏カバー

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でも、このカミソリの絵だけで、わざわざ南さんを呼んでくるもんだろうか?

などと思いながら、もう一度表紙をじっと見つめると・・・

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なんと、表紙の絵は高野文子ではない!これは南伸坊の絵だ!

中央の二人の女の子を見てほしい。


同書, 表紙(拡大)

この二人は、同書収録の「玄関」の登場人物、「えみこ(向かって左)」と「しょうこ(向かって右)」なのだが、


同書収録「玄関」, p.180

これが高野絵の二人。よく見比べてほしい。タッチがだいぶ違いませんか?

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特に右のしょうこ。これは高野絵か?南絵か?と訊かれたら、確実に南絵と言えますね。南伸坊絵の特徴がよく出ています。

無論、慎重に高野絵をフェイクしているので、まずわからない。当然だ。だから登場以来、30年以上誰も気づいていないのだ(自分ももちろん)。

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南さんは、他人の絵をフェイクすることをよくやっている。昨年のアックスvol.109(2016年2月)表紙の「フェイク河童の三平」は記憶に新しいところです。


同書表紙

詳しくは

2016年2月25日木曜日 水木しげる屁話 アックス 特集 追悼水木しげる 発売!

をどうぞ。

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それと有名なのは、

・内田春菊 (1987.12) 『南くんの恋人』. 青林堂, 東京.



この表紙の絵、作者なんだし、いかにも内田春菊と思ってしまうが、実は南伸坊の絵。

これは、あまりに辛いエンディングを創作してしまい、内田さんが「ちよみちゃん」を描けなくなってしまったので、仕方なく南さんが描いたもの。それにしてもフェイクがうますぎだ。

だが、この事実は別に隠していない。内田春菊本人が語っているのだし。

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しかし『絶対安全剃刀』の方は、南さんが描いたのだとしたら、理由がわからない。いったい、自分の初単行本の表紙を他人に描いてもらうなんて、どういうことなんだろう?

もしそうだとしても、これは高野さんは納得ずくのはず。というのもその後に『おともだち』でも、南さんが装幀をやっているから。

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とにかく謎だらけのこの表紙絵、業界の人に真相を確かめてほしいものだ。

2017年4月10日月曜日

東京藝術大学大学美術館 「雪村展」

「15年ぶりの大回顧展!」ということを聞き、もう15年経ったか・・・と感慨深かった。雪村周継(せっそん・しゅうけい)の水墨画は、私が日本画・東洋画の面白さに気づいたきっかけとなったものなので、今回も当然見に行きました。

あとで15年前の展覧会についても触れましょう。

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・東京藝術大学+読売新聞社/特別展 雪村 奇想の誕生 公式サイト(as of 2017/04/08)
http://sesson2017.jp/

「特別展 雪村 奇想の誕生」
会期 : 2017.3.28[火]- 5.21[日]
会場 : 東京藝術大学大学美術館[上野公園] 〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
開館時間 : 午前10時~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日 : 毎週月曜日 ※ただし5月1日は開館
主催 : 東京藝術大学、読売新聞社


同展パンフレット, p.1

図録はこれ↓

・東京藝術大学大学美術館+読売新聞社・編集 (2017) 『特別展 雪村 奇想の誕生』. 247+E16pp.+折込. 読売新聞社, 東京.



行ったのは平日でしたが、上野公園は花見客でごったがえ。でもはずれの東京藝大まで来ると、人出もだいぶ減りちょっと一息。雪村展もそこそこの入りでしたから、比較的ゆっくり見ることができました。

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雪村周継(1490ころ-1580ころ)は、戦国時代に主に関東~奥州で活躍した禅僧・絵師。とにかく絵が面白いのが特徴だ。特に仙人画に面白いものが多い。

前掲のパンフレットを見てみましょう。

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1p目は、ヒゲとマユ毛(そして鼻毛も)風になびかせつつ頭上を見上げる呂洞賓、巨鯉に乗る琴高仙人が大きく取り上げられている。

これだけでも、雪村の面白さが十二分に伝わってくると思う。それにしても「呂洞賓図」は人気だね。15年前の展覧会でも、ポスター/パンフレットは「呂洞賓図」だった。

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パンフレットを開くと、そこにもおかしな仙人たちが勢揃い。


同展パンフレット, p.2-3

空に浮かびながら風に吹かれている「列子御風図」(右側)が、私の一番のおすすめ。15年前、この絵を見つけて「雪村展」を見に走ったのだった。

正面から風に立ち向かうのではなく、背中から風が吹いているのがまたいい。仙人はこうでなくちゃ。理想の境地だね。

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左上の「蝦蟇鉄拐図」も、おもしろいこと限りなし。図の細部まで面白すぎるので、今回も絵の前で長居してしまった(これは前期のみの展示なので注意!)。

右下の「欠伸布袋・紅白梅図」も爆笑もの。なんでまたアクビしてる布袋を描こうと思ったんだか。変だ。展覧会場では、真っ先にこの「欠伸布袋」が出迎えてくれますからお楽しみに。

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下の「風濤図」、「龍虎図屏風」で描かれている、スパゲッティというかイソギンチャクの触手みたいな、粘り気のある波が雪村の特徴。これを見るたびに笑いがこみ上げてくる。変だよねえ。

雪村は山水画もたくさん残しているのだが、どの絵もどこかしらバランスの悪いところがあり、そこが面白い。見ていてひっかかりが多い絵、といえるかもしれない。

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15年前見た時に比べて、ずっと立派な会場なので、絵との距離がちょっと遠いような気がする。そこが今回はちょっと残念だ。

地下展示場の入り口正面に展示されている「龍虎図屏風」二雙がレプリカとはいえ素晴らしい。感動した。なお、本物は後期展示(4/25~)。後期も見に行くからいいんだけど。

重要な絵が、かなり多く前後期入れ替え展示になっているので、1回だけしか行かない人は、どっちに行くか結構悩むでしょうね。観覧料けっこう高いし(1600円)。

まあでも、これを逃すと次回はきっとまた15年後だ。1回でもいいから見ておいたほうがいいですよ。

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さて、15年前の展覧会にも触れておきましょう。

2002年は、1~9月にかけて、千葉市美術館、渋谷区立松濤美術館、山口県立美術館、福島県立美術館を巡回したのだが、私が見たのは、

「雪村 戦国時代のスーパー・エキセントリック(特別展)」
会場 : 渋谷区立松濤美術館 〒150-0046 東京都渋谷区松濤2-14-14 電話:03-3465-9421
会期 : 2002年4月2日(火)~5月12日(日)
料金 : 【入館料】 一般300(240)円、小中学生100(80)円 ※今年度より、毎週土曜日は、小中学生は入館無料です ※( )内は10名以上の団体料金

参考:
・Internet Museum > 展覧会・イベントの検索 > 雪村 -戦国時代のスーパー・エキセントリック- (特別展)
http://www.museum.or.jp/modules/im_event/?controller=event_dtl&input%5Bid%5D=10155

でした。


同展パンフレット, p.1


同展パンフレット, p.2

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図録はこちら↓

・山下裕二・監修 (2002) 『雪村展 戦国時代のスーパー・エキセントリック』. 216pp.+折込. 浅野研究所, 東京.


デザイン・制作:美術出版デザインセンター

琴高仙人が表紙のハードカバー。とても力のあるデザインです。

山下裕二先生の、展示・図録解説がまたおもしろかった。「蝦蟇鉄拐図」の解説なんか、「いいぞ、いいぞ、蝦蟇ちゃん!」なんだから笑える。

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松濤美術館はこぢんまりとした所なので、絵との距離がとても近く、今回よりも濃密に雪村の絵を楽しむことができたような気がします。

当時は「雪村」と言っても知る人は少なく(そういう自分もこの時初めて知ったのだが)、観覧客もあまり多くありませんでした。

当時、東京国立博物館では「没後500年 特別展 雪舟」も開催されており、そちらも行ったのだが、そっちはまあすごい人出。絵を見るのに一苦労だった。こちらの「雪村」はゆったり見れて楽しかったなあ。

おまけに観覧料が300円と激安だった。当然、迷わず後期も見に行ったわけです。

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今回の「雪村展」でも後期も行くわけですが、前回展示がなかった「雪村自画像」が展示される5月9日以降に行こうと思っています。これも楽しみだ。

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(追記)@2017/04/10

どうでもいいが、「りょどうひん」、「きんこうせんにん」、「がまてっかい」を一発変換してくれるGoogle IMEは、いったいどうなってんだ?

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(追記)@2017/04/17

私の一番のお気に入り「列子御風図」だが、これが実は三幅対であったらしいことも、今回はじめて知った。

これは、狩野常信による縮図(今回の図録p.161, 図版114 狩野常信筆 狩野家縮図)に記されている。

・東雲のブログ > 2011年2月26日 (土) 列子御風図
http://tohun.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-195c.html

に、その三幅対の再現図が示されています。いやあ、こうだったのか、という「目からうろこ」の再現図です。

それにしても両側の図幅はどこに行ったのやら・・・。今回初登場の「呂洞賓図」みたいに、いつかお目にかかれる日を楽しみにしていよう。

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今回の展覧会では、雪村の後進への影響についての展示が多かった(展示の最後の方)。

雪村の作品自体が濃すぎるせいもあり、観覧している間は、あまりピンと来なかったが、このように図録などを見ながらいろいろ考えていると、じわじわ効いてくるね。素晴らしい展示力・企画力であったことを実感。

もう一度見に行くのが、ますます楽しみになった。

2017年4月7日金曜日

高野文子 「早道節用守」

少し前の高野文子ネタと、江戸絵画ネタの合わせ技で思い出したのがこの作品↓

・山東京傳・原作, 高野文子・改作 (1981.1) 早道節用守(はやみちせつようのまもり). マンガ奇想天外, no.4.
→ 再録 : 高野文子 (1982.1) 『高野文子作品集 絶対安全剃刀』所収. pp.127-142. 白泉社, 東京.


装幀 : 南伸坊/小倉敏夫


同書, p.127

発表以来30年以上、この作品の評価っていまだ全く定まっていない。いや、自分もさっぱりわかっていないのだが。

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この作品は、江戸中期のいわゆる「黄表紙」をそのまんまマンガ化したもの・・・と思っていたのだが、実はそうではなかった(後述)。

首にかけると、ものすごい勢いでどこかへすっ飛ばされてしまうお守り(韋駄天の守)が、吉原から天竺、唐(もろこし、つまり中国)をめぐり、吉原の花魁(おいらん)・花荻の奪い合いに使われる。日本は江戸時代なのに、天竺にはお釈迦様はいるわ、唐には始皇帝はいるわ、というデタラメで、とっても下らないお話。

「下らない」、「滑稽」、「下品」、「地口(駄洒落)」これが黄表紙のキーワード。絵が大きく描かれており、吹き出しなどもあるし、黄表紙とは実にマンガ的な読み物なのだ。

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冒頭、惡二郎が、犬に「韋駄天の守」のことを教えられ、盗みをそそのかされるシーン↓


同書, p.129

犬がのそのそと出てきて、ごろんと寝転んだかと思うと、半纏を着て懐手をしている。黄表紙らしいね。これ大好きな絵だ。

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ところが、実はこのシーン、原作にはない。犬など出てこないのだ!なんと!驚くではないか。

原作は全編ここで見ることができる↓

・WASEDA University 早稲田大学 > Academics 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 : 古典籍データベース > その他のコレクション > 江戸文学コレクション > 江戸文学100選 : 黄表紙 > 山東京伝 > 7 > 早道節用守. 上,中,下 / 山東京伝 作(as of 2017/04/06)
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01961_0028/index.html

行書の変体仮名を読める人は、ほとんどいないだろうから、活字化したものも紹介↓

・関根黙庵・編 (1915) 『黄表紙名作集』. 296pp. 一星社, 東京.
→ 再発 : (1922.2) 『繪入黄表紙名作集』. 296pp. 平安堂書店, 東京.
→ 電子化 : Google Books UK > 繪入黄表紙名作集: 全(電子書籍無料、デジタル化された日:2010年1月6日)
https://books.google.co.uk/books/about/%E7%B9%AA%E5%85%A5%E9%BB%84%E8%A1%A8%E7%B4%99%E5%90%8D%E4%BD%9C%E9%9B%86.html?id=Zo-K8iRMQrMC

収録作は↓「早道」は最後の方。

・恋川春町 金々先生栄華夢. 
・喜三二 親敵討腹皷 鈍作万八噺. 
・喜三二 鐘入七入化粧. 
・恋川春町 楠無益委記. 
・唐来三和 莫切自根金生木. 
・山東京伝 延寿反魂談. 
・奈蒔野馬平人 啌多雁取帳. 
・喜三二 長生見度記. 
・十返舎一九 明眠千人盲仙術. 
・山東京伝 江戸生艶気蒲焼. 
・芝全交 大悲千録本. 
・竹杖爲軽 夫従以来記. 
・山東京伝 小人国毇(こごめ)桜. 
・樹下石上 万福長者寶蔵開. 
・恋川春町 悦贔負蝦夷押領. 
・十返舎一九 竹本義太夫武士. 
・大栄山人 尽用而二分狂言. 
・山東京伝 早道節用守. 
・芝全交 白髪大明神御渡申.

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高野版「早道」を見ると、なんと原作を真似たような絵はほとんどない。テレメンティコなどは、原作ではオヤジだが、高野版では子供だ。ぜんぜん違う。

高野版「早道」は、どうやら原作の絵は見ずに、文章だけを見て想像をふくらませた作品らしいのだ。驚きですよね。

もっとも、全編を通じて黄表紙らしい絵になっているので、「早道」以外の黄表紙作品を参考にしていることは伺える。

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この作品が発表された1981年1月号(発売は1980年12月)当時、黄表紙「早道」が読める本を探してみると、実は上に挙げた関根(1915)あるいは(1922)しかなさそうなのだ。

高野先生は絵入り「早道」を見ていないようなので、ますます、絵はわずかしかない(「早道」の絵も1枚だけ)この本を参照している可能性が高くなる。

いったいなんでまた、大正時代の黄表紙本などを当時読もうと思ったのか、謎は深まるばかり。

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しかし舌を巻きますね。絵を見ずに独自のイマジネーションをふくらませて、ここまでの作品にしてしまうのですから。


同書, p.139

唯一、花魁・花荻が惡二郎に棒にくくりつけられる絵だけは原作と似ている。これは他に別ルートで絵を入手していたのだろうか?ますます謎だ。

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根本的に、黄表紙をマンガ化する気になったきっかけは、いったい何だろう?さっぱりわからない。

それまでも、前衛演劇めいた「ふとん」、大友克洋タッチの実験「方南町経由」、カラートーン実験「たぁたぁたぁ」など、登場するたびに我々読者を驚かせてきた高野先生だが(全部リアルタイムで雑誌で読んでる自分が怖い)、ここでまた読者はひっくりかえることになった。

しかし、この作品の前にも後にも、これに類する作品はひとつもない。江戸絵画タッチの絵は、これっきりで使い捨て。なんと贅沢な実験だ。

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この作品は、高野作品の中でも孤立度が特に高くて、どういう評価をしていいのか、誰もわからない。

本人は「黄表紙が面白そうだったから真似したくなっただけ」なんて、あっさり言いそうだけど。

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このマンガが出る直前、実は私は、大学で半年だけ黄表紙の授業を受けていたのです。

講師は、いまや黄表紙研究の第一人者・棚橋正博先生でした。変な授業で面白かったなあ。全然授業出てなかった私も、これだけは出席率よかった。

その後、教養文庫の『江戸の戯作絵本(全6巻)』買ったりして(うち3冊しか持ってないけど)、積ん読する程度ではあったが、興味は持ち続けていた矢先の高野作品だったのです。

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高野版「早道」への反響はほとんどなかったと思う。認知症の老女を幼女として描いた「田辺のつる」には、あんなに反響があったのに(まあ、あれはすごくわかりやすいし、論評も実にしやすい作品だったんだけど)。

やはりあれは「高野実験マンガ・シリーズ」の一環で、その後は本人もこの実験を続ける気は全くなかったし、他のマンガ家も誰もトライしている様子はなかった。とにかく、みんなわけがわからなかったのだ。

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しかし最近、江戸絵画のパロディでマンガを描く人が出てきて驚いた。それが、今をときめく、コレ↓

・仲間りょう (2013~) 磯部磯兵衛物語 浮世はつらいよ. 週刊少年ジャンプ連載.


同1巻


同1巻, p.64-65

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作者の薄っぺらい江戸時代の知識で描かれる、いいかげんな作風は、高野「早道」よりも黄表紙の精神に意外に近いかもしれない。

時折、こういうヘンなマンガが湧いてくるところが、ジャンプの底力なんだよなあ。やっぱり日本マンガの層の厚さはスゴイ、とあらためて思い知らされました。

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(追記)@2017/04/07

実は江戸絵画(浮世絵)よりも古い日本画を作風にしてる人もいるのです。私以外誰もそれを指摘しないけど・・・。

それが「ほしよりこ」さん。平安時代あたりの絵巻物の絵(それもモブを描くタッチ)です。詳しくはこちらをどうぞ↓

2015年10月6日火曜日 ほしよりこ 『逢沢りく 上・下』

2017年4月1日土曜日

崗田屋愉一 『大江戸国芳 よしづくし』

前エントリーで紹介した

・崗田屋愉一 (2017.4) 『大江戸国芳 よしづくし』(NICHIBUN COMICS). 232pp. 日本文芸社, 東京. 
← 初出 : 週刊漫画ゴラク, 2016年2~3月/10~11月.

がこれです。


装幀 : コードデザインスタジオ

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内容は、若き日の悩める国芳の物語。というか、七代目市川團十郎と鼠小僧次郎吉の二つの物語がメインストーリーになってしまい、国芳と遠州屋佐吉(国芳のパトロン)は狂言回しの役割。

個人的嗜好なのだが、創作ものとはいえ、「主人公が、あの有名人ともこの有名人とも関係があった」という展開は好きではない。

ちょっと期待はずれだった。

絵はもちろん、いつもどおりレベルは高いのだが、「コレ!」という絵がない。そういうわけで取り上げたくなるページは、今回はありません。

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しかしまあ、力作なのは間違いないし、何よりも「国芳」を取り上げたマンガなぞ、この人以外に描く人はいない。応援するぞ。

一応これで完結しているようだが、まだいくらでも続けられるはず。今度は、本筋の「国芳が遊びつつ学びつつ画狂となっていく過程」をメインに据えて描いてほしいなあ。