2017年3月26日日曜日

「フイチンさん」の娘たち (2) 近藤聡乃 ウラモトユウコ

明らかに「るきさん」の絵を意識した作品がこれ↓

・近藤聡乃 (2015.6~2016.11(続刊)) 『A子さんの恋人 1~3(続刊)』(BEAM COMIX). KADOKAWA, 東京. 
← 初出 : ハルタ, 2014-APRIL~2016-OCTOBER(連載継続中).


装丁 : 芦田慎太郎(芦田デザイン事務所)

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・natalie ポップカルチャーのニュースサイト ナタリー > コミックナタリー > 特集・インタビュー > 唐木元・取材・文・撮影/近藤聡乃インタビュー (2015年6月15日)
http://natalie.mu/comic/pp/akosan

でも話しているように、近藤先生は「るきさん」が大好きで、そういうマンガを描いてみたと思っていたそうなのだ。


同書1, p.19

絵を見ると、「るきさん」よりも、もう少し後、高野先生があちこちで描くようになった、イラストというか軽いカットの方に似ていますね。

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それにしても達者な絵だ。1960年代の「略画集」に載ってるような、軽いタッチなんだが、この流れるような絵でどんどん読まされてしまう。

アックス(青林工藝舎)に載っていたころも時々見ていたけど、当時はもっと黒っぽい淫靡な絵を描いていた。佐伯俊男や丸尾末広あたりの影響が垣間見られる絵でした。

それがいまや正反対、「るきさん」の絵なんだから驚く。「A子さん」以外にこの人の本持っていないんだが、どういう経緯で今の絵に至ったのか、昔の本も探して読んでみよう。

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ニューヨーク(NYC)滞在からとりあえず一時帰国したマンガ家A子が、日本の元カレA太郎とNYCに置いてきた彼氏A君との間で揺れ動く、という、いつもの自分ならとうてい興味の持てないストーリー。

なんだか、20年位前なら柴門ふみあたりが描きそうな話だ。

それがこの絵で、コメディタッチで描かれるとどんどん読めてしまうから不思議。もっとも、そのテーマは酒の肴みたいなもんで、実際はK子+U子の悪友二人とのダベリ・コントを描くのが主になっています。

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困ったことに、登場人物が意地の悪い連中ばかりで、全然感情移入できない!これは読んでて辛い・・・はずなんだが、面白いのでどんどん読めてしまうという、このアンビバレンス。

主人公のA子は優柔不断で、なぜモテモテなんだかさっぱりわからない(「ふたりはもててるとは言わないわよ」U子)。

あー、これはあれだ。少女マンガによくある、どこが魅力的なんだかさっぱりわからないガサツな女子が、なぜか王子様的な男子(複数)にドカスカ言い寄られるという・・・。まあ作者自身の主人公への投影と願望が多分に入ったものなのだろう、とは思うけど・・・。

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まあ、とにかくまだ続くようだから、4巻も読んでみよう(連載で追う気まではない)。

それにしても、「るきさん」風の絵でこんな話を描く人が出てくるとは、あらためて日本マンガの底力を思い知りました。

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続いての「フイチンさんの娘」はコレ↓

・ウラモトユウコ (2014.2) 『彼女のカーブ』. 174pp. 太田出版, 東京.
← 初出 : (2013~14) 彼女のカーブ 1~10. マンガ・エロティック・エフ, vol.75~84.


装幀 : 名久井直子

表紙がエッチくさいですが、中身は全然エッチではありません。本屋で恥ずかしがらずに買ってください。

まあ、「フェチ」がお題の連作集ですが、ほんとに「軽くフェチ」という程度。中高生ものも3本あるし。

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近藤聡乃よりは意識的ではなく、「るきさん」風の絵は味付け程度の使い方。絵の基本は、志村貴子あたりの絵にあると見た。しかしザザッと書き飛ばしたようにみえる部分では、「るきさん」的なタッチが出る。


同書「桶屋さんのデコルテ」, p.6

この桶屋さん大好き(どうでもいいが、巻末番外編では桶谷さんになってる、実は別人なのか?)。

他にも「キミの脚」など、どれもおもしろい。男にも女にもおすすめできる一冊です。

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・ウラモトユウコ (2014.6) 『かばんとりどり』(ZENON COMICS). 175pp. ノース・スターズ・ピクチャーズ, 武蔵野.
← 初出 : WEBコミックぜにょん, 2013年6月~2014年5月
http://www.zenyon.jp/


デザイン : 須永薫 AFTERGLOW

これも短篇連作集です。こちらは「かばん」がお題。

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同書「リモコンの話」, p.15

この辺もいいですね。

この人、結構ねっちりした女子を描くのも好きで、その時は丁寧な筆致なんだが、こういう絵の時は「達者」というより、まだ「単に雑な絵」に見えてしまう。絵の修業はまだまだ、と言えるかもしれない。

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絵はかわいいし、話もどれも面白いので、今後も楽しみな作家だ。上の2冊のように、お題を出されて、それにきっちり応えられるストーリー展開能力はたいしたもの。

活字本の表紙とかイラストでもひっぱり凧です。あと、中学生ものがすごくうまいのも特長。

最新作の「ハナヨメ未満」は設定が強引すぎて、あまり入り込めなかったが。また、最近の絵は「るきさん」風からどんどん離れて行っています。

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この二人まで行くと、「フイチンさん」を直接感じ取ることはできないかもしれないが、上田としこの洒脱な絵と作風が、少しずつ形を変えながらもしっかり受け継がれている、と思うとうれしくなります。日本マンガの層の厚さを感じてください。

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